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産業連関分析

地域産業連関分析の観光産業への応用

(産業連関分析と観光産業)

ここでは,産業連関分析の応用例として,観光産業が地域経済に与える影響について考えることにします.観光産業の経済効果を産業連関分析を用いて調べるときには,産業連関表に「観光業」という欄が存在しないことをまず注意する必要があります.実際の観光行動を考えて見ると,観光には,まず目的地への往復の交通費,到着してからの飲食店での食費,旅館に泊まる宿泊費,家族や友人にお土産を買うお土産代などが発生することが分かります.つまり,単に観光産業といっても旅館や飲食店,娯楽サービスや土産物としての食料品など,観光にかかわる産業は多岐にわたっており,観光入込客数に一人当たりの観光消費額を乗じて,その地域における観光消費額を求めたとしても,産業連関分析するにはそれを最終需要として産業連関表のどこに割り振るかを考えなくてはなりません.

それを解決するために,観光客に対し旅行消費に関するアンケートをとり,その消費費目を産業連関表の各部門に対応させることで最終需要を導出する必要があります.また,観光消費額を扱う上では,生産者価格と購入者価格の区別を明確にする必要があります.産業連関表はあくまで生産者価格を基に作成されているのに対し,観光消費額は購入者価格になっています.生産者価格と購入者価格との関係は,

購入者価格 = 生産者価格 + 商業マージン + 運輸マージン

となっていますので,観光消費額から商業マージンと運輸マージンを差し引き,生産者価格に変換して分析する必要があります.それぞれのマージンは各部門の観光消費額に商業・運輸,各々のマージン率を掛けて求めることができます.

以上の準備から,観光消費の産業連関分析を行なうことができます.前述の手法により求めた交通費,宿泊費,外食費,買い物・お土産代などの観光客の費目別消費額を,それぞれ該当する運輸や旅館・その他宿泊施設,飲食店などの産業への最終需要の増加として,前回までに説明したモデル式に代入すれば,観光消費の経済波及効果が計算できます.

(観光産業の分析事例)

ここでは,実際にどのような分析が行われているかを知るために,いくつかの地域の分析レポートを見ていくことにします.

○宮崎県「あなたにもできる産業連関分析 \ 簡易分析ファイルによる事例分析

この分析は平成12年宮崎県産業連関表を基に平成18年2月に行われたものです.最初に分析の説明が行われています.産業連関分析事例の第1章において,観光消費による経済波及効果分析が行われています.この分析の特徴としては,観光消費額の分割を観光客にアンケートをとる方法ではなく,既に存在する県観光・リゾート課の推計した観光動向調査結果から行っている点を挙げることができます.観光消費額を県外客,県内客ごとに宿泊料,土産品代,交通費,雑費(飲食費,各種施設への入場料等)の4区分に分けて推計しています.また一部の部門については,産業別県内自給率を調整しています.具体的には,小売,教育・研究,その他の公共サービス,娯楽サービス,飲食店,旅館・その他の宿泊所,その他の個人サービス部門については需要が県内のみで全て賄われるものとして,県内自給率を1と設定しています.石油・石炭製品部門では,調査年には県内でガソリンの生産はなかったと想定しています.この想定によりガソリンの県内需要分は全て移輸入によって賄われていることになるので,県内自給率は0となっています.

○北海道観光産業経済効果調査委員会「北海道観光産業経済効果調査

この調査は平成18年3月に行なわれました.北海道庁が実施した北海道観光の経済効果に関する昭和63年から平成元年にかけての調査,平成5年から6年にかけての調査,平成11年から12年にかけての調査に続く四回目となっています.分析は,産業連関分析を用いて生産波及効果,所得効果の計測を行っています.産業連関表としては平成12年北海道地域産業連関表が使用されています.

具体的な分析は,北海道民が一年間に行う観光行動と消費を把握する「道民観光消費実態調査」,一年間に来道したすべての道外観光客が行う観光行動と消費を把握する「道外客消費実態調査」,そして以上の二つの調査と産業連関表を使って観光消費の経済波及効果等を調査した「経済効果調査」の三つからなっています.

この調査の最大の特徴は「道民観光消費実態調査」,「道外客消費実態調査」で行われているモニター調査です.まず道民の観光消費実態を調査する道民観光モニター調査において,NTT電話帳などを基に2万世帯の抽出を行い,その中からパターンモニター,消費モニター合計1100世帯を募集しています.パターンモニターには,一年間にわたり行った観光行動を日帰りドライブ,日帰り行楽,一泊休養,リフレッシュ旅行,一泊行楽旅行,多数泊旅行の5つのパターンにわけ,そのパターンごとの回数を報告してもらいます.消費モニターには観光パターンに加え,そのパターンごとの消費金額を詳細に報告してもらいます.こうして得られた2種のデータと全道の世帯数をもって,道民による一年間の観光消費を拡大推計し,総観光消費額を把握しています.ここでは,観光一回あたりの消費金額を交通費や宿泊費などといった項目別に集計しており,観光の実態把握だけでなく,この後の産業連関分析への準備にもなっています.

道外客の消費実態調査では,モニター確保の確実性の向上,効率化を図るために対北海道便(下り便)の道内到着地にて,直接依頼の形でモニター募集を行っています.場所は,新千歳空港(到着ロビー),旭川空港(到着ロビー),女満別空港(到着ロビー),北斗星車内(上野〜札幌間),八戸フェリーターミナル(夏季のみ)の五地点です.モニターは1000人で,北海道旅行の目的や旅行中に北海道で消費した金額などを詳細に記入してもらい,それを旅行目的別(仕事,周遊観光,スポーツ観光,各種集会・大会への参加の四種類)に集計します.旅行目的別の道外客数は北海道と道外を結ぶ各交通機関の下り便の一年間の総利用者数と旅行者による移出入額の調査などの各種調査から推計します.観光消費額の把握は道民観光実態調査と同様の手法で求められています.最後に,以上の調査を踏まえて産業連関分析を行っています.この分析では,生産誘発効果,家計迂回効果,所得形成効果,就業機会(就業誘発効果)の計測が行われています.

同様の分析手法を用いた分析の例として,株式会社北海道21世紀総合研究所の「札幌市観光産業経済効果」, 東京都港区産業振興課「港区観光振興ビジョン」などを挙げることができます.また, 北陸建設経済研究会の「北陸における観光産業の波及効果」では北陸の四県の観光動態調査から北陸の観光の現状を把握し,北陸地域の産業連関表を使って産業連関分析を行っています.しかし,観光消費額のデータが四県中,石川県しかないことから石川県の観光消費額を北陸四県のデータとして拡大推計しています.群馬県総務局統計課統計分析グループの「産業連関分析事例」は,観光消費額の分割に国土交通省の「旅行消費アンケート調査」の平均的な値を,兵庫県[9]では日本観光協会の資料から日帰り客,宿泊客それぞれの平均的消費額を使用しています.

○ 北海道経済産業局「観光産業の経済効果に関する調査報告書

この報告書は平成18年7月10日に作成されました.分析のために実施されたアンケートは平成17年11月下旬から平成17年12月下旬に調査されたものであり,対象は事業者です.また,アンケート調査の内容が経営にかかわる情報であるため,回答率が低くなることが予想されたために,事業規模の大きな事業者や取引の出発点となる宿泊業者についてはヒアリング調査も行っています.アンケート調査の調査対象は観光産業(観光客に販売やサービスを提供する業種と定義)です.具体的には,「宿泊業」,「卸・小売業」,「飲食業」,および観光産業の需要が間接的に波及する業種として「製造業・建設業・サービス業等」の四業種としています.アンケート調査の内容は,
(1)事業者のプロフィールにかかる項目(年間総売上高,年間宿泊客数,従業員数)
(2)観光関連事業者との取引状況(取引先の業種,売上高に占める割合)
(3)年間売上高に占める各経費の割合(原材料(農産品等)の仕入れ費,人件費,その他の営業経費など)
(4)原材料などの域内からの調達状況(原材料,人件費,その他の営業経費)
(5) 農産品の購入先の業種(宿泊,卸・小売,飲食業)
の五つの項目になっています.

この報告書では,これらのアンケートから売上高に占める仕入費の割合や域内調達率,域内の人件費の割合,品目別域内消費率を計算しています.つまり,目的に応じた部分的な産業連関表の作成を行っているといえます.事業者にアンケート調査を行っているのはそのためであり,地域を限定し,観光産業に限ればアンケート調査から投入係数等が求まることが示されています.アンケートから求まったこれらの数値を用いて「観光経済波及効果」を求めています.なお,ここで使用している観光消費額,そしてその分割額は「北海道観光産業経済効果調査」で行われている消費者アンケート調査から得られたものです.

○北海道総合企画部経済調査課の「観光産業の分析に係る報告書 \ 後志支庁の観光と消費

この報告書は,平成7年度後志支庁産業連関表を基に平成14年10月に作成されたものです.平成13年度の観光に関する当該地域の調査を基に当該地域の観光の現状のまとめ,そして後志支庁の観光産業の産業連関分析による経済効果の推計を行い,最後に,計画されている「後志観光30ミリオン事業」の目標達成時の経済効果を産業連関分析により推計しています.

分析の特徴として,使用された産業連関表が平成7年後志支庁産業連関表であることが挙げられます.対象となる観光産業の定義は消費項目を,交通費,旅行会社,宿泊費,外食費,買い物・お土産代,雑費・通信費・運送費の6つに大別し,それらを更に16部門に分類しています.観光消費(直接効果)の推計は「北海道観光産業経済効果調査」のデータを利用して道内客,及び道外客の一人当たり観光消費額と消費パターンを推計し,それを後志支庁への観光入り込み客数に乗じて算出しています.

経済波及効果の分析は平成7年後志支庁の産業連関表を用いて産業連関分析によって推計しています.報告書では以上の分析から同地域の経済において,観光産業の影響が非常に大きいことを示した上で,同様の手法で「後志観光30ミリオン事業」の目標達成時の経済波及効果の推計を行っています.まず,「後志観光30ミリオン事業」目標達成時の観光入込客数である年間3000万人に,一人当たりの観光消費額を乗じて事業の目標達成時の観光消費額を算出し,それをアンケート調査で得た費目別構成比(観光客の消費パターン)で分割し,最終需要の推計を行っています.

○中国電力株式会社経済研究センターの「観光が広島県経済に及ぼす影響

この報告書は広島経済同友会からの依頼により作成され,平成17年3月に公表されたものです.調査では平成15年(2003年)の宮島における観光の経済波及効果,および,平成16年から17年(2004年から2005年)に実施された大型観光キャンペーンによる経済効果の算出を行なっています.大型観光キャンペーンによる経済効果で使用された産業連関表は平成7年(1995年)のものです.

調査レポートでは,まず広島県の産業構造,および,今までの観光振興策,観光資源や観光の現状と課題が記述されています.通過型の観光地が多いことや,観光地間の連携不足,交通インフラの整備の不十分さ,観光関連産業の規模の小ささなどが理由となって入込観光客数が伸び悩んでいることを指摘し,観光振興を図っていくことが重要であるとしています.そして,観光が地域経済に及ぼす経済効果の算出が行われています.分析の前提として以下を挙げて推計しています.

(1)宮島町観光課の「観光入込み動態調査(2002年)」から宮島における観光客の立ち寄り先の分布状況と2003年の観光客数を利用して,宮島における各観光拠点への入場者数を推計,これに入場料を乗じて観光拠点への支出額としています.
(2)宿泊費は宮島町観光課の「観光入込み動態調査(2002年)」から得られた周辺のホテル・旅館の平均単価と日数をもとに算出しています.
(3)飲食費は観光客の全員が島内で昼食を取ると仮定.土産物については商店街への立ち寄り率と広島市への観光客の平均消費額で算出しています.

このようにして推計した食費,宿泊費,施設利用料,土産物代,の四つから経済効果を算出しています.次に,広島県で2004年から2005年にかけて実施された大型観光キャンペーンによる経済波及効果を推計しています.この部分では,さまざまな仮定を置くことで観光消費額を推計しています.まず交通費ですが,これは宿泊旅行,日帰り旅行別で利用交通手段別の全国平均単価を使っています.
飲食に関しては「日帰り客は必ず昼食をとり,夕食は半数がとる」,「宿泊客は宿泊回数+1の昼食,宿泊回数分の夕食をとる.朝食は宿泊費に含まれていることが多いため,算定対象外」といった仮定を置いています.最終的には,予想した観光消費額と大型観光キャンペーンで見込まれている10%増の観光客数で産業連関分析が行われています.

○佐渡市,財団法人地方自治研究機構の「離島地域における地域産業の再生に関する研究

この報告書は平成19年3月に公表されたものです.佐渡市の経済社会環境の整理,事業所アンケート調査,観光客アンケート調査から産業連関表の作成,そしてそこから佐渡市の経済・産業構造の特徴と問題点の分析,戦略プランのシミュレーション分析を行っています.

報告書では,佐渡市のある新潟県,そして佐渡市と似た地理的特徴を持つ沖縄県の産業連関表と今回作成した佐渡市の産業連関表を比較して,産業連関表から分かる佐渡市の産業構造の特性と問題点を細かく指摘しています.他のレポートでは当該地域の産業構造について詳しく言及していないものが多いにもかかわらず,この報告書ではその前段階で産業構造を詳しく分析し,そこでまず構造上の問題点(輸移入率が非常に高く,域内における産業間取引が十分に形成されていない,域外に市場を求める輸移出競争力のある財・サービスが少ない等)を指摘しています.この問題は波及効果の大きさにかなり影響を及ぼすものであるため,ただ現状の観光消費の経済効果を求めても,他の地域のように高い経済効果は望めないことになります.

そこでこの報告書では現状での観光消費の経済波及効果を示した後,「地産地消」を推進して島内自給率を高めると同一規模の観光消費額の及ぼす生産波及効果がどれほど増大するのか,さらに観光客の回復が実現するとどうなるのかなどの問題意識についてシミュレーション分析(生産波及効果分析)が行われています.他のレポートが,事業計画がある上でその経済効果を示すことによってその計画の有効性を訴えていることとは異なり,経済効果を生み出すにはどのような計画が必要なのかという問題意識に答える分析になっているところに注目したいと思います.詳細な分析からこの問題点を分析しているこのレポートは観光振興策を考える良い資料になると思われます.

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